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ATRAC(SONYの黒歴史) [テクノロジー]

ATRACは「Adaptive TRansform Acoustic Coding」の略で、SONYが独自開発したオーディオの非可逆圧縮技術・規格名、および後年開発された関連技術群の総称となります。

atrac_01.jpg

いずれも、SONYグループや、その他家電系メーカーの開発した規格・製品で主に利用されていました。

そもそもは、MD録音用のコーデック「ATRAC1」(ステレオ (通常292kbps) 、モノラル (通常146kbps))として開発されたコーデックでしたが、その後に、関連技術のATRAC2、ATRAC3、ATRAC3plus、およびATRAC Advanced Losslessを開発しました。

また、一般的にはあまり知られていませんが、SCPC社(現Sony Cinema Products Corporation)が開発した映画の音響システムSDDS (Sony Dynamic Digital Sound) でも採用されています。

収録は5.1chもしくは7.1chで、合計ビットレートは最大1280kbps。先行規格のドルビーデジタルやdtsより音質の評価は高かったものの、設備コストなどが難点となり普及率は低く、新規劇場インストール業務はとうの昔にやめており、インストール済劇場のサポート業務しか行われてませんが…。

ATRAC2に関しては、MDに汎用データを記録可能な「MD DATA」の標準音声として、ATRAC3はATRAC2を元に、PCやネットウォークマンでの使用用途として開発。その後MDLP規格にも採用。ATRAC3plusはATRAC3を元に音質を変えずに圧縮効率を高めたコーデックとなります。

ATRAC Advanced Lossless は2005年9月に登場した、ATRACで唯一の可逆圧縮技術・規格。AALと略されます。

ATRAC3もしくはATRAC3plusにより非可逆圧縮したデータ、およびそれと原音との差分を記録した可逆圧縮データを併せ持つ事で無損失での記録を行うというもの。携帯音楽プレーヤーにはAALデータ全体の転送の他、ATRAC3/ATRAC3plus部分だけを取り出すことで小さなサイズのデータとしての高速転送も可能となります。

一般的なロスレス圧縮では可逆圧縮データを小さなサイズのデータとして転送する場合、再圧縮してから転送する為に転送に時間がかかる他、可逆圧縮データとは別に非可逆圧縮データを保存する必要がある為に転送元機器のデバイス容量がより多く消費されますが、AALでは非可逆圧縮データを可逆圧縮データに内包しているので、転送時間やデバイスの消費容量が削減されるという利点があります。

ATRAC_02.jpg

名称や用途が極めて似ている為、これら5種は「ATRAC系コーデック」としてまとめて扱われることが多いですが、実はこれらは相互互換性のない別々の規格となっています。

なお、ATRAC2、ATRAC3などの名称の末尾についている数字はATRACのバージョン番号であると誤解される事がありますが、正しくは名称の一部です。

SONY製ATRAC1コーデックの名称として「ATRAC Ver.○○」が使われる為、としばしば混同されますが、ATRAC3はATRACの最新版ではなく、ATRAC Ver.3とATRAC3およびATRAC3plusは全くの別物という訳です。

SONYは2005年秋よりこれらすべての総称をATRACとする事で、一応の混乱の収束を図っています。

一時は、SONY製のオーディオ機器、PC、ゲーム機等は必ず対応していた規格でしたが、今となってはXperiaやPSVitaでは対応せず、このまま行けばPS4での対応も微妙という所まで来てしましました…。

ATRACシリーズは色々と難儀な運命の規格なんですが、まずはMDで採用されたATRAC1迄遡ります。

最初期のMD機器で用いられていたSONY製ATRACコーデック「ATRAC Ver.1」では実記録ビットレートに現在の半分しか割り当てられていなかった為、記録音質が極端に悪くなっていました。

この事がATRACの音質に対する悪印象を定着させてしまった事から、ATRAC Ver.1はその後の普及・展開にも大きな影響を及ぼしたコーデックとして悪名高く語られています。

次にATRACにケチがついたのは、SONYの方針による頑な迄のWaikmanのATRACコーデックのみの対応でした。

SONYはiPodに先駆ける事2年前に、MS録音型のネットワークウォークマンを発売し、コーデックにATRAC3を採用して以来、ポータブルオーディオプレイヤーの主軸がカセットやMDからデジタルオーディオに変わっていく中で、MP3には対応せず、ATRAC3/ATRAC3plusのみの対応という方針を貫きました。

確かに、初期のMP3エンコーダーで録音した楽曲よりATARAC3コーデックの方が音質は良かったのですが、2001年に発売、2002年にWindowsに対応したiPodはMP3という汎用コーデックの採用という事も有り、爆発的に普及しました。

明らかに独自コーデックが足かせになっているにも関わらず、WalkmanがMP3に完全対応したのは2006年(途中SonicStageでの転送時にMP3からATRAC3に変換するという仕様は有りましたが…)。完全にiPodに水をあけられてしまいました。

この明らかな方針ミスによりSONYやWalkmanはもとより、ATRACが諸悪の根源の様に語られました。

何度も言いますが、ATRAC3以降の規格は非常に優れた音質を誇っていたと思います。特にAALは登場時、感動を覚えるレベルでした。

SONYがATRACに固執せず、AppleがMP3を基本としつつAIFFやApple Losslessという高音質コーデックに対応した様にATRAC3/3plus、AALに対応という形であれば、Walkmanの販売台数もこんなに苦戦しなかったと思います…。

こうした数奇な運命を辿ったATRACファミリーですが、あえて言うならATRACのせいで今のWalkmanの凋落が有ると言えるんじゃないでしょうか?

厳しい事を言えば、そこまで音質が良くなければ、SONYもATRACを押す事も無くWalkmanはいまだにポータブルオーディオプレイヤーの代名詞だったかもしれません。




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コメント 7

catwalk

こんにちわ!
いつも拝見させて頂いています。メーカーの商品紹介よりわかりやすく、いつも感心させられながら読ませて頂いております。
マニアにはほど遠いですが、昔からとりあえずSONYデス。
SONY製品ならマニュアル見なくても使えるところがいいですね、感覚が似てる気がします(^^)。
ベータに続いてやってしまいましたねw 今回はmp3対応しながらでも十分ATRACの良さは伝わったと思いますが・・・。残念デス。

by catwalk (2013-07-23 23:51) 

そぬす

>catwalkさん

ご声援頂き誠に恐縮です。

一昔前は、マニアじゃなくても『AV機器ならSONY』というブランド力が有ったんですけどね…。

今時、ハイスペックでも価格が高ければ一般の方は敬遠しちゃいますから、価格が高くても、それ以上に『面白い』『便利』と思わせる機器、ソフトの開発にSONYは力を入れて欲しいですね…。

最近では、nasneとスマホやタブレット連携は非常にイイ感じだと思うんですが…。
by そぬす (2013-07-24 21:15) 

2013年だから言えるATRACの負け話

ATRACはとことん負けました。
ATRACはBluetoothのオプションコーデックに指定されていたのに、2013年、ネクストSBCの座はオプションコーデックでも何でもないApt-XとAACになることが確実視されています。特にiOS製品以外ではApt-Xでしょう。
ATRACは20年も前から、リアルタイム処理で圧縮する低消費電力のハードウェアエンコーダーとして製品化されました。MP3は高音質ながら計算力が必要で、当時エンコードできるのはパソコンだけでした。
ATRAC。その特長はBluetoothにぴったりでした。しかし現在、蓋を開けるとBluetoothのチップはどこもCSR社製、その圧倒的シェアを背景にApt-Xを買収し、自社製品に搭載したことでApt-Xはスタンダードコーデックとして確実視されています。
ATRACがBluetoothに採用されていれば、今のATRACファイルがSBCに二重処理されてしまうことはなかったのにと思います。


それともう一つ、ATRACはDLNAの公式オプションコーデックでもありました。DLNAではオプションでも何でもないFLACやALACよりも活躍しないコーデックとなってしまいました。

このようにみると、MD時代の後、ATRACはチャンスは一杯もらってたのに何も発展しなかったコーデックでした。

by 2013年だから言えるATRACの負け話 (2013-12-24 03:08) 

メークボーイ

もともとは、レコード業界の反発ゆえに生まれたものですね。
SONYはMDではなく、録音できるCDを実用化したかったようですが、レコード業界が音質無劣化コピーに大反発したそうです。
by メークボーイ (2014-10-17 19:35) 

2015年だから言えるATRACの話

どうやらPS4とPS Vitaにメイン音声コーデックとしてATRACがATRAC9という新たな派生コーデックとして復活しているようですね。
プレステからの著作権収入で利益だけ回収するのでしょうか。
採用に関するソニーの主張はやはりリアルタイム処理の速さということで昔ATRACの開発思想から一緒。
これについて何か情報があれば知りたいですね。
by 2015年だから言えるATRACの話 (2015-06-08 21:24) 

そぬす

>2013年だから言えるATRACの負け話

apt-XがBluetoothの新デファクトスタンダードコーデック化していましたが、LDACの登場とオープン化で、業界がどう変わって行くかが楽しみですね。

また、ATRAC9に関しては色々調べても技術仕様の文献がなかなか出て来ませんね。PS4、PS VITA向けに特化したクローズドな規格みたいです。SCEに対する著作権収入というよりは、将来的にゲームソフトのマルチサウンド化や、オブジェクト型サラウンド等を見据えて、アップデートが容易に出来る様に独自規格にしてるんじゃないでしょうか?
by そぬす (2016-01-26 14:08) 

そぬす

>メークボーイさん

今となっては、CDより高音質な音源がネットからダウンロード出来る時代ですから、それを考えると音楽業界も随分柔軟になったものです。

まぁ、国内では悪徳著作権保護団体が未だに色んな規格に難癖つけてますが…。
by そぬす (2016-01-26 14:11) 

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